勇者サマヤ物語 0002
情報不足だ。
何をするにも情報が足りない。情報を制する者は全てを制す。彼を知り己を知れば百戦殆うからず。俺は知っている名言などをテキトーな気分で脳内に並べ立てつつ、酒場へと向かった。腹が減ったので、出立前に食事を済ませておきたかったのだ。腹が減っては戦はできぬ。
昼飯時だったので、酒場は非常に混んでいた。しかし、運命の戦士である俺には関係ない。ズカズカとカウンターに近付き、その辺の青年を殴り倒して椅子を奪う。
「キュウッッ!!」
変な断末魔だ。
「…………、」
俺が殴り倒した青年は、昼間から酒を飲んでいたようだ。若いのに何をしてるんだ、まったく。殴り倒して正解だったようだ。
俺は未成年なので、まだ酒を飲むことができない。家でコッソリ飲んだことはあるが、直後に父親に見つかってボコボコにされたので、ちょっとしたトラウマになっている。それ以来、酒を見るだけで血圧が少し上がってしまう。
「お、マーちゃんじゃねえか! よく来たな! 座れ座れ!」
俺を見つけるなり、酒場のマスターであるトウヨウが大声で言った。何を勘違いしているのかは知らないが、俺はもう椅子に座っている。
「今日、国を出るんだって!? 大変だろうが、頑張ってくれよ! 世界のためにな! ワハハハ」
トウヨウは一体どこでその情報を仕入れたのだろうか。まだ誰にも言っていなかったはずなのだが……まあ、俺は運命の戦士なので、そのような些事は気にしない。
つづく。