勇者サマヤ物語 0004
と、そこで俺は気になる人物を発見した。俺は音もなく席を立ち、おもむろにその人物へと近付いていく。
「……お」
声を掛けようとして、その人物が異臭を放っていることに気付く。運命の戦士たる者、嗅覚も鋭敏なのだ。このような人物と関わりを持つわけにはいかない。
「あばよ、トウヨウ……」
俺は酒場を後にした。臭いが気になって仕方がないからだ。あれでは、誰かから何かしらの情報を仕入れようにも、会話に集中できないだろう。何の臭いなのかも気になったが、運命の戦士的には無視で正解だったように思う。
さて、これからどうするべきか……。
考えるのも面倒になってきたので、とりあえず仲間を探す旅に出ることにした。ちなみに解説しておくと、この国で探さないのは、すでに俺が仲間を募った後だからだ。国王であるアララキが大々的に演説してくれたのに、魔王討伐パーティーに加わろうとする者は一人もいなかった。ああ、世知辛い世の中だ。
この国には高い外壁が設置されており、それが狭い国土をグルリと囲っている。東西南北それぞれに一つずつの門が設けられ、昼間は多くの馬車が忙しなく出入りしている。その外壁に向かっている途中、後ろから誰かに声を掛けられた。
「おい、サマヤ! 元気そうだな」
男の声だ。少し気分を害された。
「お前は……」
俺が振り返ると、そこには数人の男達が立っていた。なるべく関わりたくないタイプの、柄の悪そうな連中だ。
「待て! おい! 待てよ!!」
関わりたくないので、無視して立ち去ろうとすると、すぐさま呼び止められた。何なんだ、ちくしょう。名前も与えられていないモブが。死ね。
「誰だか知らないけど、先を急いでるんだ。手短に頼む」
「アァ!? テメェの事情なんて知るかよ、クソ野郎が。忘れたとは言わせねえぞ。三日前に俺の仲間をボコっただろ!?」
「ん……?」
忘れた。
「今日はお礼参りに来たんだ。覚悟しろよ、サマヤさんよぉ」
「用はそれだけか? じゃあ、先を急ぐから……」
「テメェ待てやコラァ!!」
背を向けると、バールのような物で後頭部を殴られた。ちょっと痛かった。許せない。運命の戦士である俺の後頭部には、あらゆる進化の先にある神化の可能性が秘められているかも知れないというのに。その価値を理解していないとは、何たる愚昧か。許せない。許せない。許せない。
「サマルディーヤ・ナンマルディーヤ・ソリソリティーン!」
気付いたら呪文を唱えていた。
つづく。