ペンは剣よりも強し。

頭に浮かんだことを気ままに書いていきます。

勇者サマヤ物語 0006

 もう六ページ目か。早いものだ。俺はここまで飽きずに書き続けられた自分の根気強さに感心しつつ、せっせと走る馬の背に手を置いた。綺麗な毛並みだ。きっと主人は、この馬の世話に気を遣っていたに違いない。

「せっかくだし、名前を付けてやろう」

 あれこれ名前の候補について考えている内に、門に着いていた。あれこれ言ってくる門番に生返事をしつつ、馬の名前と、行き先のことについて思いを馳せる。

「そうだ。エルゼイナ、という名前はどうだ?」

 せっせと走る馬の背に話し掛けると、馬はいきなり走行速度を極端に落とした。しかし、この程度で落馬する運命の戦士ではない。やがてエルゼイナ(仮)は完全に停止し、いくらムチを入れても進まなくなった。

「何だ、気に入らなかったのか?」

 俺が訊ねると、エルゼイナ(仮)は頷くように首を振った。もしかして、人語が分かるのか? 凄まじい才能だ。コイツは運命の戦士が駆るに相応しい名馬である可能性がある。

「ワガママだな。なら、ブラッディリリーは?」

「ブルブルブルブ!!」

 ブラッディリリー(仮)の首の横振りは止まらない。これもダメか。

「そうだな……じゃあ、スターゲイザー、というのは?」

「……ブルッ! ヒヒ〜ン」

 どうやら気に入ったようだ。スターゲイザーは俺を背に乗せているのも忘れて、ピョンピョンと跳ね始めた。単純な馬め。説明するのを忘れていたが、馬を奪った時点で荷車は切り離してあるので、馬が跳ねて後ろの荷車がひっくり返る、という大惨事に至ることはなかった。

 スターゲイザーは自らに付けられた名前を気に入りすぎたのか、しばらくの間、走ることも忘れて跳ね続けていた。これは喜びの舞だな。

「ブッ、ブルッ、ヒュ〜……」

 踊り疲れたのか、スターゲイザーは俺を背に乗せたまま、地面に座り込んでしまった。コイツちょっと頭おかしいんじゃないか?

 一時的に足を失った俺は、そこで野宿をせざるを得ない状況に追い込まれてしまった。もう少し歩いてもいいのだが、ここから歩いてもどうせ隣の町には着かないし、それならこのまま休んでおこうという素晴らしい結論に達したのだ。分かったか?

 

 つづく。