ペンは剣よりも強し。

頭に浮かんだことを気ままに書いていきます。

勇者サマヤ物語 0010

 ふとした思い付きで書き始めた手記も、ついに十ページ目を迎えた。ちょっと嬉しい。最初は五ページ目くらいでやめようと思っていたのだが……。この手記の一部を公開した後、登場人物達の反応を窺うのが、俺のちょっとした娯楽になっている。

 さて、途中で魔物に出会うこともなく、俺達はシノアリの町に到着した。時刻は午後になったばかり。たぶんそのくらいだろう。まあ、細かい時刻はどうでもいい。運命の戦士は細かいことを気にしない。ちなみに『運命の戦士』とは『さだめのせんし』と読むのであって、『うんめいのせんし』ではないことを留意しておいて欲しい。これは細かいことではない、重要なことだ。

 俺はすぐさま宿屋を見つけ、寝床を確保してゲイを宿屋の主人に預けた。ゲイは俺と離れるのを拒んでいたように見えたが、宿屋の主人が何か赤い果実を差し出すと、ゲイはあっさり俺とのしばしの離別を承諾した……ように見えた。現金な馬だ。

 テキトーに町を散策していると、どの建物の壁にも同じような紙が貼られていることに気付いた。俺はその内の一枚を壁から剥ぎ取り、内容に目を通す。

『来たれ、腕利きの戦士!

 洞窟の邪竜討伐隊を募集!』

 と、大きな赤い文字で書かれていた。募集しているのは分かったのだが、どこに応募すればいいのかが書かれていない。これを作った奴は相当のバカだろう。この場にソイツがいれば、俺が間違いなく殴り倒している。

 貼り紙の内容に軽い苛立ちを覚えた俺は、まだ見ぬ作成者をボコボコにする妄想をしつつ、近くを歩いていた町人に声を掛けた。

「アンタ、見ない顔だね。旅人さんかい?」

 俺は無言で貼り紙を差し出した。

「ああ、これか。これはね、町一番の商人であるミナカタさんトコに行くといいよ!」

 場所が分からないから教えろ。

「場所かい? 場所はね……」

 首尾よく場所を聞き出した俺は、さっそくミナカタの邸宅へと歩き始めた。

 道中、何度か周囲を見回してみた。なかなかに明るい町だ。商人ミナカタについての噂は、前に俺も聞いたことがあった。最近になってシノアリの町に移住してきた人物で、周辺の行商をあっという間にまとめ上げ、町の発展に尽力してきたらしい。果たしてどのような性格の持ち主なのか、今から気になって昼寝もできそうにない。そう言えばまだ昼飯を食っていなかったが、まあ後回しにしてもいいか、という気分にすらなっていた。商人ミナカタ、恐るべし。

 会って話すのが少し楽しみだ。

 

 つづく。