ペンは剣よりも強し。

頭に浮かんだことを気ままに書いていきます。

勇者サマヤ物語 0014

 奥に進むと広い空間に出た。そこでは、赤黒い鱗を持つ竜と一人の男が、激しい戦闘を繰り広げていた。竜の方には目立った外傷はないし、特に疲労しているわけでもなさそうだ。対して男の方は、大きな傷はないものの、汗だくで疲労困憊といった様子。どうやら、手持ちの短剣では竜にダメージを与えられないらしい。事前準備が甘すぎる。相手が竜だと分かっているのに、どうしてもっと大きな武器を用意しないのか。

「あれが例の邪竜か?」

 スカミットは首を縦に振りまくった。

「は、はい! 早く加勢を……!」

「いや。ここで待っていてくれ」

 剣を抜いて飛び出そうとするスカミットを制止して、激闘中の両名へ、ゆっくりと近付いていく。あの男には可能性がある。まともな武器を渡せば、あるいは……。

「お前、名前は!?」

 俺が訊ねると、男はようやくこちらに気付いた。竜との戦闘に集中していたようだ。男は素早い動作で竜から離れ、呼吸を整えようとして大きく息を吸う。

「おれの名はナミハ!! 盗賊だ!!」

「そうか!! 俺はサマヤという者だ!! ナミハ!! 俺と一緒に、魔王を倒しに行かないか!?」

「は!? いきなり何言ってるんだ!?」

 ナミハは困惑しながらも懸命に竜の攻撃を回避し、受け流していた。会話中だから空気を読んで竜が戦闘を中止してくれる、などという都合のいい話はない。敵意を発していないから、竜は俺を狙おうとはしない。俺は激しい戦闘に割って入り、ナミハに話し掛けているのだ。それでもナミハは死ななかった。戦えていた。なかなかに優秀だ。

「受け取れ、ナミハ!!」

「!?」

 インコブレードと同じ要領で生み出した両手剣を、俺はナミハに向かって投げた。ナミハは持っていたボロボロの短剣を投げ捨てると、慌てて俺の剣を受け取る。あれはインコブレードより数段下の存在なので、ここではウンコブレードと呼ぶことにしよう。

 そして、驚愕の表情を見せた。

「それを使えば、勝てるだろう!?」

「…………!」

「さあ、戦うんだ!!」

 俺の激励を受け、ナミハはウンコブレードを構えた。竜の翼、その先端にある、人間を狩るには巨大すぎる爪が、ナミハに迫る。しかし、ナミハはもう逃げなかった。ナミハがウンコブレードを真横に一閃させると、竜の爪が……いや、その先にある翼までもが、真っ二つに斬り裂かれた。多少はナミハの力も働いているだろうが、さすがは俺の剣だ。素晴らしい。

 はい、ナミハの勝ち〜。

 

 つづく。