勇者サマヤ物語 0028
「ここです」
これは小さなラーメン屋だ。
「ここ……なのか?」
キュウが場所を間違っている可能性もあるので、一応、確認しておく。
「はい。ここです」
ここらしい。店先の看板には『ラーメン処!!アソコ亭!!』と黄色の文字で書かれていた。文字から凄まじい気迫が伝わってくる。アソコってどこだよ。
「早く入りましょう!」
お前、いつも眠そうにしてるくせに、そんな大きな声も出せるんだな。ちょっとびっくりしたぞ。
「あ、ああ」
キュウの様子が変だ。目の色が変わっている気がした。出会ったばかりだから知らないだけで、こういう子なのだろうか。ラーメンが好きなのかも知れない。だとすると悪くない趣味だが、ラーメンは店によって当たり外れの差が大きいのが欠点。果たしてこの店のラーメンは、運命の戦士の舌に合う味かな? 期待しておこう。
「いらっしゃーい」
店内に入ると、一人の男に出迎えられた。
「おー、キュウさん。今日も来てくれたのかい」
「こんにちは、アソコさん。えっと、サマヤさん、この人は店主のアソコさんです」
「よろしくなー」
俺はアソコとやらに頭を下げた。綺麗に焼けた浅黒い肌が、筋骨隆々とした身体によく似合っている人物だ。腕相撲が強そうに見える。……アソコって人の名前だったのか。
「ノーマルラーメンを二つ」
席に着くと、間髪入れずにキュウが言った。
「あいよ。そっちのニイちゃんは?」
えっ? 二つでしょ? 俺の分も頼んでくれたんじゃないの?
「……じゃあ、ノーマルラーメンを一つ」
俺がそう注文すると、キュウが不思議そうな目で俺を見てきた。一つでいいのか? と言われている気がする。いや、分からないから解説してもらいたいんだが。ノーマルは小さいのか? だとすると一つでは足りないな。しかし、それなら後でもう一つ頼めばいい話だし。
「…………、」
まだ見てるよ。ちょっと怖いよ。
この少女といると、ペースを乱されがちで、どうもやり辛い。
負けるな、サマヤ!
つづく。